2010年8月22日 Voice
実家に置くものと持って行くものを分けようと
服に手を出したのがいけなかった。


服・服・服
色とりどりの細い服。

纏められて
同じケースに封印された服がある。


殆ど呼吸もせずに買い漁ったものたち。

みるみると変わる体型を受け入れられなくて
入らない服ばかり求めて。

それを手元に置いては
着ては脱ぎ捨て、鏡の前で崩れて泣いて。
それでも捨てられなくて泣いて。

いつか着られるように戻ると誓って。
笑って着られると信じて。



久しぶりに見たその服たちは
すっかり時代遅れになっていた。

捨ててしまおうか、
捨てれば吹っ切れるかもしれない
手放さない限り前に進めないだろう

そう思って、
ごみ袋に入れる服を選び始めた。


一着の行方を判断するのに何時間も掛かった。
暑さで眩暈を起こしながら冬物を着る。
入らないボトムスを見て カッと血が上る。

不思議なことに
半分無意識で買い漁ったその服たちの
すべてにはっきりと覚えがある。

病院の帰りに、顔も上げずに手に取ったもの。
「細身の人に」の文字に反応してオークションで追ったもの。
色の感覚がおかしくなって
クローゼットにすべての色を揃えたくて
埋める 為だけに、ふらふらとあちこちを探したもの。


病的な人間の集めたものは
全部が病的だった。

綺麗な服なのに
毒々しい色を放って病的だった。

それなのに

捨てられなかった。


もう「いつか着よう」なんて思わないのに
思わないと決めたはずなのに

捨てられなかった。


娘ができたら着せたい、などと思ってみた直後に
そんな事が私には一生無い、
出来るはずが無い事を思い出して

じゃあこの服は何の為に此処にあるのか
着る人がいないのに
此処にいる「着る資格のない人間」に
何故こんなにも執着されているのか

分からないのに捨てられなかった。


今、自分の着るものはすべて消耗品だと思っている。
一度着れば穢れる。服まで醜くなる。

勿体ない、という感情に似てはいるけれど
はっきりとは分からない。
本当に好きなものを、着てはいけないと思う。
どうでも良いものにしか袖を通せない。

この身体の隅々まで
どんなに血が滲むほど洗い続けても
取れない汚れがこびり付いている気がする。


だからこそ
その服たちは眩し過ぎて、綺麗すぎて。

確かにそう思ったのに。



気付くと夕陽が落ちかけていて
くしゃくしゃに丸められた服はもう灰色に見えて
崩れ落ちた自分の体の一部みたいだった。

一度も着てやっていないのに
自分の皮膚や内蔵みたいだった。

この姿の自分は
まだ自分だと思ってやれないのに。

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